選挙システムという足枷
5月の統一地方選挙の直前に最初のデモ15-Mを呼びかけたことから、当初は主催団体DRY(デモクラシア・レアル・ヤ)は選挙のボイコットを呼びかけているという誤った認識が広がりました。しかし実際のところ、彼らが訴えていたのは二大政党制と現行の選挙制度への疑問と選挙法の改正だったということは以前の記事で説明した通りです。
その証拠に今回の総選挙においては、DRY Barcelonaはサイト上で『El 20N l’acció és anar del carrer a les urnes(11月20日の行動は通りから投票場へ行くことだ)』という呼びかけを行いました。スペインの場合は、カタルーニャのCIU集中と統一党やバスクのPNBバスク国民党など地方の大政党が大きな影響力を有していて、単純な二大政党制と言う訳でもないので、以下からは二大政党制に代えて大政党制という訳語を当てていきます。
(左から)1. PP、PSOE、CIU、PNVへの投票ー国民の42パーセントを代表する。国民の声や決断とはかけ離れたところで政治を行う 2.白票ー何の役にも立たない。大政党に有利となり、他の政党の代表となるのを困難にする。3.少数派への投票ー代表が多様化し、国民の声が異なる党に分配される。4.無効票ーシステムへの不満を表す。大政党への票にならないが、小政党への票にもならないために、何の変革も成し遂げられない。
それと同時にDRYとして呼びかけられのが『CONTRACAMPAÑA 20-N(11月20日反キャンペーン)』。
もうたくさんだ! 私たちは政治家や銀行家の手の中にある商品ではない!!
現在の政治家も選挙システムも私たちを代表するものではない。だから、DRYとして私たちは行動し、選挙のごまかしを告発し、偽の議論に反論する反キャンペーンを開始することを決意した。
- ソーシャル・ネットワークを通じて君の意見を他の人々と分かち合う
- 選挙制度の足枷を乗り越えた政党について情報を集める
- 候補者の汚職を告発する
- 選挙法の働きや自分の票を利用する選択肢について情報を集める。
反キャンペーンの目玉の一つが¡DoRiYakiTU!。現行の選挙制度に対する異議申し立てを各投票場の代表に提出するというものでした。こうした動きを追いかけてみると、15-M運動の中に現行の選挙制度に対する強い不信感があるが良くわかります。
そして、今回の選挙結果は彼らの主張を裏付けるものとなったので、新聞記事を参考に現行の選挙システムについてまとめてみました。
スペインの選挙において選挙区によって一票の重さは変わり、議席の獲得は様々な要因に左右されます。まず、選挙法Ley Orgánica del Régimen Electoral General (LOREG)に従って、350議席が52の選挙区に割り当てられるのです。セウタとメリジャが各1議席、それ以外の州には最低2議席が割り当てられ、残りの議席は市民登録の人数に応じて分配されるため、マドリッド36議席、バルセロナ31議席に対して、ソリアは最低議席の2議席というような結果になるのです。
スペインで用いられている選挙システムはドント方式と呼ばれるもので、アルゼンチン、フランス、ベルギー、フィンランド、アイルランド、イスラエル、日本(いわゆる比例代表区制)など多くの国々で利用されているものと同じです。ドント方式では有効票が3パーセントに満たない政党を除外した後に、政党を得票数の多いものから順番に並べて、選挙区の議席数を同じになるまでそれぞれの得票数を1、2、3で割っていきます。例えば、3パーセント以上の有効票を獲得した3つの政党で5つの議席を争うとしましょう。それぞれの得票数と議席数は以下の通り。
- A政党: 80.000 票
- B政党: 65.000 票
- C政党: 23.000 票
-
A政党 80.000(80.000/1) 40.000(80.000/2) 26.666(80.000/3) 20.000(80.000/4) 16.000(80.000/5)
- B政党 65.000(65.000/1) 32.500(65.000/2) 21.666(65.000/3) 16.250(65.000/4) 13.000(65.000/5)
- C政党 23.000(23.000/1) 11.500(23.000/2) 7.666(23.000/3) 5.750 (23.000/4) 4.600(23.000/5)
この結果、A政党3議席、B政党2議席となり、C政党はあと一歩のところで議席を獲得することができません。
大政党に有利で、小政党に不利なことに疑問の余地がないことから、このシステムは改良の余地があるとする専門家が多く、フランコの独裁が終わって、強固な政府を保証する必要があった民主主義の初期に選択されたこの制度は、現在の状況に相応しいものではないと意見もあります。
特徴として挙げられるのが、過半数を越えるのが容易で、過半数に満たないとしても、勝った政党は十分な権力を獲得し、他の政党の力をあまり必要とせずに、議会で主導権を握ることができる。また、全国での得票数が高くても多くの選挙区に得票が分散してしまう政党に不利で、少ない選挙区に得票数が集中する政党に有利に働く。また、白票も3パーセントを越えると有効とみなされるので、議席獲得に必要な得票数が増えることになるなどです。
(20 Minutos紙『Las claves del sistema electoral en España: Ley D’hondt, número de escaños, circunscripciones…』参照)
このドント方式に関する説明が、面白いくらいにぴったりと当てはまったのが今回の選挙結果でした。選挙結果の詳細は前回の記事を参照してください。それでは、選挙結果の表をもう一度見てみましょう。
まず、一つ目の「過半数を超えるのが容易」という指摘は、今回得票数をそれほど増やしたわけでもないPP国民党の大勝利がそのまま当てはまります。そして二つ目の「全国での得票数が高くても多くの選挙区に得票が分散してしまう政党に不利で、少ない選挙区に得票数が集中する政党に有利に働く」ですが、全国政党であるIU-LV左派連合と緑の党の連合とUPyD進歩と民主連合、そして地方政党のCIU集中と統一党、PNBバスク国民党、この二つの得票数と議席数を比べてみると一目瞭然です。約100万票を獲得したCIUが16議席獲得した一方、得票数がその1.5倍以上の170万票に及ぶIU-LVは11議席。そして、32万票のEAJ-PNVと110万票のUPyDの獲得議席は共に5議席です。
やはりDRYが主張するように現行の選挙システムは公正とは言えないようです。もし、一票の重さが同じだとすると、今回の選挙結果がどうなっていたかというシュミレーションも行われました。
内務省によると20日に投票を行ったのは 24.590.557 人。これを下院の350議席で割ると議席あたり70.259 票となります。すると、PPの議席は186ではなく154となり過半数には届きません。PSOEの議席数も110議席ではなく99議席に留まります。そして、IU-LVが24議席、UPyDが16議席とそれぞれ第三党、第四党となり、CiUとPNBはそれぞれ2議席減らして14議席と5議席へ。そして、Equo、Pacma、FAC、Escaños en Blanco、アンダルシア党など今回の選挙で議席を獲得できなかった小政党にも、議席が行き渡るという結果になるのです。
(20 Minutos紙『¿Cómo quedaría el Congreso si todos los votos valieran igual?』参照)
この公平とは言いがたい結果に、現行の選挙制度を批判する声も高まっています。現行の制度で最も不利益を被った政党、IU党首Cayo Laraカヨ・ロラは現行の選挙法に不満を表明し、UPyD党首Rosa Díezロサ・デアスも「不公正な」選挙規則によってペナルティを課されたと批判しました。
一方で惜しくも議席を獲得できなかった小政党も黙っていません。
Equo、Pacma、Escaños en Blanco (EB) 、Por un Mundo Más Justo (M+J)の4党は「自分たちの合計得票数は44万票で、後順位で議席を獲得したAmaiur、PNV、ERC(ESQUERRA)、BNGの各党の得票数より多いのに、議席を獲得できなかったことで選挙資金に対する公的支援を受けられないのはおかしい」として、連盟で選挙法の改革を求める声明を発表しました。とりわけECUOに関しては、得票数18万票のBNGが2議席を得たにもかかわらず、21万票を集めても1議席も獲得できなかった上に、資金援助も受けられないとなっては、怒るのも当然でしょう。
ということで、現行の選挙システムの問題点が浮き彫りとなった選挙結果を受けて、選挙法の改正への気運が高まってきました。スペインの真の民主主義への第一歩は、多党制を保障する選挙法の実現から始まることになりそうです。

