15-Mのデモが終わり広場でのキャンプが始まると、いつの間にか『 Indignadosインディグナドス』という言葉が、この動きに参加する人々の示す用語として浸透していました。私は『Indignado』という単語の意味を知らなかったので、この呼び名を初めて耳にしたとき、元になっている『Dignidad(尊厳)』という単語から類推して、「尊厳を奪われた人々」「尊厳を持って扱われていない人々」というイメージで捉えていました。

さて、ブログの記事を書く段になって訳語が必要になり、辞書を見てみると「憤慨している」という意味とのこと。なるほど「(尊厳を奪われて)憤慨している」ということなんですね。スペイン語においてのこの言葉のポイントは「尊厳」が含まれていることなのですが、日本語の場合は「憤慨」が「尊厳」を思い起こさせることはないと思ったので、もう少し幅の広い「怒れる」という言葉を当てています。

実は、この『Indignados』という言葉に今回のスペイン革命の秘密が隠されています。アラブ世界の革命はフェイスブックやツイッターなどインターネットのツールから生まれたと言われていますが、なんとスペイン革命の裏にあったのは5ユーロ(約600円)で手に入る一冊の小冊子なのです。

それがStephane Hessel ステファン・エセル著『Indignaos! (憤慨せよ!)』です。フランス語のオリジナル『Indignez-vous!』は2010年10月22日に、Indigèneという小さな出版社から初版8000部が3ユーロで発売されました。その後重版を重ねて、現在では200万部を超える大ベストセラーになっています。3月末に発売されたスペイン語版も5月末の時点で40万部に届く勢いで売れていて、4月には国営放送TVEでこんなドキュメンタリーが放送されるほどの話題となりました。

このエセル氏の「憤慨せよ」という呼びかけに応えた人々という意味で、マスコミは「Indignados(憤慨した人々)」という言葉を使っていたというわけなのです。

本文は30ページ足らずで文字も大きいので、外国人の私でも小一時間で読める分量。でも淡々と綴られた文章からは、著者エッセル氏の激しい憤慨が圧倒的なパワーと説得力を持って伝わってきます。「憤慨こそが抗議の原動力となる。無関心は最悪の振る舞いだ。」と檄を飛ばす93歳のエッセル氏は、まるで20世紀の世界史をそのまま生きたような人物。本の著者紹介文によると…

1917年にドイツ生まれるが、2歳のときに家族でパリに移住。フランスがナチスに侵攻されるとレジスタンス活動に参加。後には、ロンドンでド=ゴール将軍の「自由フランス」に加入する。1944年ゲシュタポの手で収容所に送られるも、処刑寸前のところで死んだ別の囚人になりすまして無事生還。大戦後は外交官となり国連に協力、1948年には世界人権宣言の起草者の一人となる。

こうした彼の人生と憤慨が丸ごと、このちっぽけな冊子の中に凝縮されているのです。「社会保障、独立したマスメディア、有効な失業対策など第二次大戦後に人類が獲得したものが経済危機によって危機に瀕している。」

彼は自分たちが命がけで獲得してきた権利、誰もが尊厳ある生活を送る権利が踏みにじられている現在の状況に対して憤慨している。この状況を生み出している金に目がくらんだ一部の裕福な人々と、民主主義の砦という本来の役割を見失い、権力者のメッセンジャーと化したマスメディアに憤慨している。そして、それが目の前で起こっているのを許している自分自身にも。

だから、私たちに語りかけるのです。「君たちは怒っていいんだ。憤慨していいんだ。それは君たちの権利なんだから」と。

こうして、尊厳ある生活を守るために、スペインの人々は通りに飛び出しました。

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