前回の記事では、イグナシオ・ラモネの欧州経済危機とギリシャに関する解説をご紹介しました。『借金を返す必要はない』という彼の主張を補足説明するために、これから数回に分けてラモネが現在の経済危機をどのように考えているのかをご紹介します。

2009年10月にベルナルド・オイギンス大学(チリ)が主催したセミナー『Globalización Post-Crisis(ポスト経済危機のグローバリゼーション)』の中で行われた講演『El Krach Perfecto. Crisis del Siglo y Refundación del Futuro(完璧な恐慌−世紀の危機と未来の再建)』を参考に、今回は現在の経済危機のメカニズムについての見解をまとめてみました。

今回の経済危機の勃発を象徴する日付は2008年9月15日だと考えられている。米国の三大投資銀行の一つリーマン・ブラザーズが破産し、手を差し伸べるものが誰もいなかった日だ。このリーマン・ショックによって株は大暴落し、危機がドミノ式に世界経済全体に波及した。しかし実際のところ、危機はすでにその一年前に始まっていた。9月15日はその危機が暴発し表面化した日付にすぎない。今回の危機が始まったのは、米国において貸付け銀行が大量に破産した2007年7月。いわゆるサブプライム危機の勃発に遡る。

さて、サブプライムとはなんであろうか? サブプライムとは、返済が困難なことが予測される低所得者に対する住宅融資のことだ。では、どうして返済が滞るとことが予想される相手に融資したのだろうか? 理由はその数年前に起こった深刻な経済危機にある。2001年金融業界は重大な危機に直面していた。ニュー・エコノミーと呼ばれたインターネット関連のバブルが弾けたからだ。

米国連邦準備制度(FRB)理事会の議長だったアラン・グリーンスパンは、この重大な危機が1929年の大恐慌のような深刻な事態をもたらすのを回避するため、2001年初頭に大量の資金を投入することを決定した。つまり、資金の流れが停滞しないように、通貨の価値を切り下げて、すみやかに金をばらまくこと。グリーンスパンが考えたのは、建設分野の消費を刺激することだった。2001年の時点では、住宅が不足しており大きな住宅需要があると見積もられたていたからだ。しかしこの不足は、返済能力のない人に銀行が融資していなかったためでもあった。

その一方で、2001年は911が起こった年として私たちの記憶の中にある。つまり、米国社会は二つの強烈なパンチをくらって精神的なショック状態にあったのだ。一つ目はITバブルの崩壊。瞬く間に年金などに波及し経済活動を麻痺させた。そして、もう一つの911は米国社会を恐怖に陥れた。こうした二つのショックに対応するために、グリーンスパンはブッシュ政権の支援の下に、「相手構わずとにかくお金を貸す」ということを始めた。こうして、2001年から2008年にかけて銀行は簡単に融資を行った。

米国の法律においては、住宅ローンの返済が一定期間滞ると、銀行が住宅を没収して、それまでのローン返済分が全て水の泡になる。また、住宅の分野に投機の場が生まれたので、需要と供給の法則から住宅価格は自動的に年15パーセント上昇した。そのため、低所得者に融資する銀行にはリスクはなかった。例えば、3年後に借金の返済が滞った場合、その住宅を没収すれば、その住宅価値は45パーセント上昇していたのだから。銀行が失うものは何もないのだ。

さらには、利息は最初の2年は固定でその後変動制となっていた。その当時は通貨の価格が安く、ゼロ金利にさえなる状況だったので、リスクはなかった。ところで、通貨の価格とはなんであろうか? 米国連邦準備制度が各銀行に貸すドルの価格のことだ。米国連邦準備制度が銀行に貸し、銀行が企業や個人に貸す。米国連邦準備制度はお金が回転するように、1〜0パーセントの低金利で融資した。

そういうわけで、そのときはリスクはないように見えた。にもかかわらず、そのリスクをカバーするために、貸付け銀行はその債券を細かく分けて債券化して、市場で売った。住宅価格は毎年15パーセントも上昇していたわけだから、こうしたサブプライムローンの債券は収益率が高く、22パーセントに達するものもあった。世界中がこぞってこの債券を買いあさった。こうすることで、銀行はリスクを放り出したと思っていた。

実際のところは、しばらくすると目に見えてインフレ率が上昇した。グリーンスパンはそれに対応するために、ドルの価格を切り上げた。この頃には、住宅ローンは利息が変動する時期に入っており、それまで4パーセントの利息を払っていた人々は、6パーセント、7パーセントの利息を払わなければならななくなり、何百万という家族が返済不能に陥ったのだ。彼らが手放した住宅が一気に住宅市場に押し寄せると、需要と供給の法則から住宅価格は下落する。

このようにして、住宅価格は上昇し続けると考えていた銀行は、買い手のない700万戸の住宅を抱えることになった。銀行は失った価値を回収しようとするが、住宅ローンの債券の価格も下落し、誰もが売りに走る。リスクを回避したと信じていた銀行は、この時点で真実に気がついた。

また、銀行はヘッジファンドに大量の融資をしていた。ヘッジファンドは未来を投機の対象にする機関で、銀行は彼らに簡単に融資を行っていた。例えば、100万ユーロの元手があれば1000万ユーロ融資するというレバレッジのシステムを用いて、膨大な融資を行っていたのだ。このお金を使ってヘッジファンドは何をしていたのか? 市場で最も利益率の良い金融商品を購入していた。そう、サブプライムの商品だ。そのため、サブプライムが崩壊すると、銀行は住宅を売れなくなっただけでなく、破産したヘッジファンドからの返済も失った。このようにして、2007年7月に今回の危機が始まり、拡大したというわけだ。

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