イグナシオ・ラモネが経済危機のメカニズムを解説した前回の記事の続きです。同じく2009年10月にベルナルド・オイギンス大学(チリ)が主催したセミナー『Globalización Post-Crisis(ポスト経済危機のグローバリゼーション)』の中で行われた講演『El Krach Perfecto. Crisis del Siglo y Refundación del Futuro(完璧な恐慌−世紀の危機と未来の再建)』を参考に、今回は「現在の危機は新自由主義の危機」と語るラモネの見解をまとめてみました。

私たちが目の当たりにしているのは、資本主義の危機ではない。なぜなら、資本主義は危機を恐れず、危機とともに生きるからだ。「危機は資本主義にワクチンを射つ」と言われるように、資本主義は危機から学び、危機を生き延び、危機を克服し、危機によって強化されるものなのだ。

現在の危機は資本主義の一つの周期の終わりだ。この周期は1980年に始まった新自由主義で、つまり、新自由主義に特徴付けられた資本主義が終わろうとしている。

みなさんは覚えているだろうか? ドナルド・レーガンは大統領の職に就いたときに、「解決策は国家ではない。解決策は市場だ」と発言した。ここから、右派政権、左派政権関係なしに世界中の国々が、市場に対して彼らが要求するスペースを与えてきた。国家は撤退し、市場を放置するようになった。このときに今まで決して行ったことがない手法「民営化」をでっちあげ、民営化によって国家の資産を市場に移した。

そこにあったのは「市場の方が有能だ」という考え方だ。いくつかの分野においては、この考えは嘘ではない。しかし、今回の場合、市場はだんだんと尊大な組織へと変化していった。「市場の方がなんでも上手くやる」という原則から、市場はとりわけ国家が課すルールを受け入れなかった。市場、とりわけ金融市場はあまりにも完璧なレベルに到達したために、資本主義が本来持つ原理である金融恐慌が生じてしまった。

3世紀に及ぶ近代資本主義の歴史で初めて、資本主義のシステムが極限まで完成されたために、市場が事実上自分で自分を律するようになった。恐慌と言うリスクが放置されて、市場は「ああしちゃいけない。こうしちゃいけない」「これはやってもいいけど、ここまでが限度だ」と口を挟む権力機構を必要としなくなった。

こうして、市場はありとあらゆるルールを拒否した。1929年の世界大恐慌の後に制定された市場の暴走や無分別を制限する法律を全て廃止してしまったのだ。つまり、この危機は市場の無分別の危機である。この危機は無分別なレベルにまで達した投機の危機である。このように、この危機は資本主義の終わりではない。

長い歴史の中で、資本主義の原則は国家と市場が共に機能するということだった。今までにたった2回だけ、それも短い期間に、市場が自治を望んで自治を獲得した時期があった。一つが19世紀末の自由主義経済と呼ばれた時代で、30年後に第一次世界大戦という結果に終わった。もう一つが1980年に始まった今の期間で、この大きな経済危機を引き起こした。これは経済史上初の世界レベルの大恐慌であろう。今までの恐慌は支配的なな立場にあったいくつかの国の中の話だったが、今回の危機で影響を被っていない国はない。

また、この危機は経済の危機なだけではなく、イデオロギーの危機でもある。1989年11月9日のベルリンの壁が崩壊し、冷戦が終結した。これが国家主義的共産主義が機能しなかったことの表れだった。それと同様に今回の危機は、無分別な超自由主義もまた機能しなかったことを示しているのだ。

株価が再び上昇しているというニュースをご覧になったかもしれないが、危機が起こった9月15日に株式市場は全体の価値の70パーセントを失って、世界全体の富の40パーセントが消滅したとも言われているのだから、株価は2007年のレベルにははるかに及ばない状態にあるのだ。再び株価が上昇していると言って、IMF総裁が数日前にイスタンブールで「危機は終わった」と発言したが、何のことを言っているのだろうか?

この危機はただの危機ではなく、いくつもの危機が絡み合ったもので、システムの危機である。危機に晒されているのは、貸付け銀行、貯蓄銀行、米国にあった5つの投資銀行にいたっては消滅してしまった。破産したり、国有化されたり、合併したり。そして、ゴールドマンサックスは貯蓄銀行に転換した。

同様に、株式市場の危機でも株式システムの危機でもあり、市場を規制する権力機構の危機でもある。それは全く機能しなかったのだから。ニューヨーク市場、ロンドン市場などで、市場規制を行う機関は何の役に立ったのだろうか? 結局彼らは何もコントロールできなかったのだ。そして、格付け会社の危機でもある。世界には3つの格付け会社があり、株を買おうと思ったら誰もがその評価を参考にする。ところが、格付け会社は企業のために働いているのであって、企業の信用度を保証しているのではないことが明らかになった。

そしてまた、この危機は生産の危機、産業の危機、そして社会の危機でもある。国際労働機関(ILO)によると、この一年間で5100万人の労働者が解雇された。たったの一年で5100万人が職を失ったのだ。国によって期間や条件は様々だが、一般的に失業した人々は失業保険を受給する。この失業保険の給付期間が終わったら、こうした人々はどうするのか? 結局、1年程度ではこの後どうなるかということはわからない。

ヨーロッパの失業者の数は増え続けている。スペインは労働力人口20パーセントが失業状態にあり、米国も10パーセントで、増加のスピードは落ちているものの、増え続けていることに変わりはない。危機が終わったと言っているが、危機はまだ終わっていない。

そして、最後にツケを払うのは誰か? 私たちは奇妙なことを目にしてきた。米国史上最も新自由主義的で保守的な政権が、歴史上最も多くの国有化を行ったのだ。何十もの銀行、世界最大の保険会社AIG、自動車会社GM。今までにこれほど多くの国有化を行った国は資本主義国家はないし、社会主義国においてすらない。それを新自由主義的でネオコンのブッシュ政権が行ったのだ。

つまり、状況が極限に達したために、イデオロギーさえもが曖昧になってしまったということだ。それゆえに、これはイデオロギーの危機でもある。これから私たちは、どの方向に向かっていけばいいのか?

そして、こうした国有化や国家による支援によって、世界の大部分の国家が借金漬けになってしまったの。中国、ヨーロッパ、日本、米国という国々は、経済が加速して、再び機能するようにと、莫大な資金を投入した。しかし、一定の効果はあったものの、危機を止めるには至らなかった。その結果、国家はひどい借金漬けの状態にあり、例えば米国の予算赤字は史上最大に膨れ上がっている。

長期的な視点に立って見ると、今後何が起こるのだろう? 国家は破産するだろう。ヨーロッパではアイスランドは破産したし、ハンガリーやウクライナ、バルカン諸国の金庫は空っぽで、70 年代や80年代の第三世界の国々のようにIMFから融資を受けている。お金がないのだ。そして歴史を見るとわかるが、負債が一定以上のレベルに膨れ上がった場合、国家はその負債を未来の世代に先送りすることができない。さらには、概して借金漬けとなった国家の通貨は下落する。それが今ドルに起こっていることだ。輸出が促進されるため米国にはメリットもあるが。

こうして、一般的に国家が多額の負債を抱えた場合に、何が起こるのか? デフレが始まる。昨年よりも値段が安くなるという奇妙なことが起こる。わずかだが、ヨーロッパでも始まっている。しかし、歴史が教えてくれるのは、ベルサイユ条約で多額の負債を抱えたドイツ、ワイマール帝国のケースだ。ドイツは、負債金額の価値が下がるように、ハイパーインフレを起こしたのだ。私たちに今後高インフレやハイパーインフレが起きないと、誰が保障できるだろうか?

経済の見通しは闇に包まれていて、何も見えない状態で、まだトンネルの終わりは見えていない。

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