去る11月20日日曜日スペインでは総選挙が行われました。「与党PSOEスペイン社会労働党が歴史的な大敗北を喫し、最大野党の保守派PP国民党が過半数越え。他の欧州諸国に続いてスペインも政権交代、7年ぶりの右派政権誕生へ」という選挙結果だけを見ると、「長引く経済危機にスペイン国民も保守化、欧州の右傾化がさらに加速した」という結論を出したくなるところですが、得票数に注目してみると違った側面が見えてきます。ちなみに投票率は2008年の73,8パーセントに対して今回は71,7パーセントとわずかに低下。

Publico紙選挙結果より)

まず、PSOEが大幅に支持者を失ったことは得票数からも明白です。前回との差はなんと400万票。こんなにも多くの支持者を失った原因の一つは、左派を自認するにもかかわらず、新自由主義型の経済政策を実施したこと。実質的に欧州において緊縮政策を推し進めているのは各国政府ではなく、トロイカと呼ばれるIMF(国際通貨基金)、EU(欧州共同体)、ECB(欧州中央銀行)の3つの機関で、サパテロ政権もその圧力に押し切られて社会コストを大幅に削減する政策を進めてきました。

そしてもう一つが、経済危機とは直接関係ないのですが、革命が勃発したリビアへの派兵。2004年のPSOE政権成立は、マドリッド列車爆破テロの処理に対するアスナール率いるPP政権の不手際と共に、PSOEがイラクからの即時撤退を公約として掲げることで、イラク派兵反対派の支持を得たために可能になりました。にもかかわらず、今回リビアのケースではフランスやイギリスを足並みを揃え派兵に踏み切ったのですから、このことに失望した支持者は決して少なくないはず。

一方で、大勝したと言われるPPですが、得票集を見てみると前回とそれほど変わっていないことがわかります。支持者を減らさなかったという方が正しいかもしれません。野党であったこの7年間は実質的に何も行っていないので、支持者を失望させることもないのも当然と言えば当然ですが。約66万票の増加に留まっているので、PSOEが失った約400万票がPPに流れたというわけではないようです。ここまでで、今回の選挙はPPの大勝というより、PSOEの自滅だったことがわかります。

では、PSOEが失った票はどこへ行ったのでしょうか。得票数で二大政党につけて第三位になったのが、IU-LV左派連合と緑の党の連合でした。前回より71万票増と増加票数ではPPを10万票上回っています。

IUは元々はスペイン共産党として活動していた政党で、1996年の選挙では21議席を獲得して以降不振が続き、現在では2議席まで落ちこんでいました。今回の選挙では、失望したPSOE支持者と15-Mで立ち上がった若者に訴える選挙キャンペーンを行い、それが本人たちさえ予想していなかった大躍進に繋がったようです。

公式サイトに掲載された全84ページに及ぶ選挙プログラムを眺めてみると…

基本方針1- 危機から抜け出すための経済に関する案

  1. IUは何よりもまず雇用を優先することを約束する
  2. 公正な財政改革
  3. 潜りの経済活動の撲滅
  4. 中小企業や個人営業主の支援
  5. 貸付を行う公的銀行を創設
  6. 公的支出の制限
  7. 新たな生産モデルの構築
  8. 失業者の保護
  9. 憲法による住宅に対する権利の保障

基本方針2- 進歩的な民主主義に関する案

  1. 選挙法の改正
  2. 完全な参加型民主主義
  3. 政治制度の機能の民主化
  4. 汚職の撲滅と公職につく者の倫理的な行動を確保
  5. 第三共和制の実現に向けた憲法改正手続き
  6. 公的情報へのアクセス
  7. 非教権主義

この後、環境、社会サービス、フェミニズム、平等推進、農業と食糧主権、文化とコミュニケーション、平和と具体的な提案が続いていきます。さらには、この提案は開かれたものだとして特設サイトConvocatorio Socialを開設し、経済、民主主義、公的サービス、環境、平等、文化、平和という7つの革命に対する意見を広く求めています。例えばこんな感じ…

経済の革命

資本主義に対する包括的な代替案の基礎としての経済の革命。私たちが経験している危機は、資本主義システム全体の危機である。その全体という特徴によって、経済、金融、環境、資源、食糧、エネルギー、そして、政治、文化、イデオロギーという多面的な危機として現われている。

今日において危機からの抜け出すためのモデルには対立がある。一方は、社会全体のためではなく、限られた範囲の権力を持つ一部のための解決策を探すもの。そしてもう一方は、大部分を占める市民のそのモデルの押し付けに対する抵抗運動。

その抵抗には一貫した目的がある。新自由主義が支配する現在の社会的、政治的、文化的モデルを乗り越えること。そして、資本主義を葬り去るための状況を作り出すこと。

そうした抵抗は、個人ではなく、大多数の人々にとって何が利益となり、何が不利益になるのかという具体的なものから出発しなければならない。その具体的なものは私たちのところにあり、彼らにあるのは私的なものなのだ。抵抗は代替案である。抵抗は攻撃である。抵抗は提案である。抵抗は革命である。

民主主義の革命

代替的な左派のパワーは、連邦的、共和的、連帯的な国家の枠組みにおいて進歩的な民主主義の達成を目的とするべきであり、それは自由と参加の枠を広げ、市民の経済的、社会的、文化的な福祉を保証するものとなる。

環境的に持続可能な新たな発展モデルを確立する社会においては、社会的、経済的に重要な選択肢は民主主義的に決められたものである。

歴史の周期が私たちに見せているのは、変化とは議会で成し遂げられるものではなく、それを成し遂げる社会的な力があるときに成し遂げられるものだということだ。

経済制度を変えるためには、政治に変化を起こし、危機に苦しむ何百万という人々のための政策を行わなければならないことを、私たちは知っている。そのために、今こそ完全な民主主義へと進むために社会と憲法の働きを結びつけるべきなのだ。

こうして見ると、DRYなど15-M運動の主張と重なるところがあるのがわかります。また、15-Mのスポークスマンの一人だったAlberto Garzónアルベルト・ガルソンが、アンダルシアのマラガから立候補して見事に当選。今後IUの議員として国会に出席することになります。IUの協力の元15−M運動から生まれた提案を議会に提出すると語るアルベルト。やはり15-Mの運動は何かを生み出しているのです。

とはいうものの、PPの得票数の延びも無視できないし、さらには議席数で第三党となったCIU集中と統一党はカタルーニャの保守派ナショナリスト政党。保守化の傾向が見えることも事実です。ただ、PPの歴史的大勝という見かけが想像させるように、振り子が反対に振れて政権交代が起こったわけではありません。

Publico紙選挙結果より)

また、こちらのグラフを見ると、二大政党以外の小政党がの占める割合が増加しているのがわかります。このことからも、人々が新たな選択肢を模索している状況が見えてきます。スペインにおいて民主化以降現在まで続いてきた2大政党制が揺らいでいるのは間違いないようです。スペインの社会で、ゆっくりと何かが変わりつつあります。

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