先月末にスペイン政府は失業率25,02%とフランコ体制後最高値を記録したことを発表しました。3ヶ月前から8万5000人、昨年から79万9800人増えて、失業者数577万8100人。失業はそれだけでも深刻な社会問題なのですが、この裏側にはもう一つ大きな問題が隠れていました。住宅ローン滞納による立ち退きです。

日本も同じだと思いますが、ほとんどの人は月々の給与から返済する計画で住宅ローンを組みます。そのため、失業→住宅ローン返済不能→強制退去という負のスパイラルによって、仕事を失うと同時に住居も失うというケースが続出しています。家賃の支払い不能によるものも含めて、スペインでは日に平均532件の立ち退きが執行されていて、その82パーセントが他に住居を持たない未成年の子供がいる家庭という統計が出ています。

そして、事態をさらに深刻にしているのが、現在のスペインの住宅ローンのシステム。ローン返済不能となると銀行が住居を差し押さえて競売へとなるのですが、不動産市場は完全に冷え込んでいるので、買い手がつかないことがほとんど。その場合には、銀行がローン査定価格の60パーセントで物件を取得し、その取得金額をローン残高から差し引きます。つまり、銀行が物件を取得し、残りのローンの返済も受けられる一方で、返済不能に陥った人は住居を失い、ローン残高+利息+差し押さえや競売の手数料が借金として残るという結果になるのです。

不動産バブルで莫大な利益を得ておきながら、それが弾けて損失が出ると公的資金の投入で私的な負債を公的な債務に変える。さらには、住宅ローン焦げ付きについては、貸付けを行った銀行にも責任があるにもかかわらず、焦げ付きが起こると住宅が手に入るだけでなく、残ったローンの返済も受けられる。銀行は全く損をしないシステムを目の当たりにしているスペインの人々にとって、抗議活動の最大のターゲットが銀行である理由がここにあります。

仕事を失い、住居を失い、返済できるあてのない借金を負う…。こうした状況に絶望して立ち退き執行を前に、10月25日アンダルシアのグラナダで男性、11月9日バスクのバラカルドで女性が自らの命を絶ちました。

(10月25日夜にカタルーニャ広場で行われた追悼集会)

二人目の犠牲者を出して、ようやく重い腰を上げたPP国民党政権は、昨日野党第一党のPSOE社会労働党と対策について協議を行い、木曜日には緊急措置を可決したいとしています。それと対照的に、すでに4年も前からこの問題に取り組んできた団体があります。PAH – Platoforma de Afectados por Hipotecaローン被害者者の会です。

PAHはローン返済不能に陥った人々を支援する団体で、立ち退きを回避のため銀行に交渉を求めるなどのして問題の解決を試みてきたのですが、なかなか交渉に応じない銀行を前にして、2年前から直接行動で立ち退きを阻止してきました。方法は単純。立ち退き物件に大人数で押し掛け、執行人たちが物件に入るのを妨げて、物理的に立ち退きの執行を不可能にするのです。

緑のTシャツを着ているのがPAHのメンバー。ビデオの最後の部分は次回の立ち退き阻止の呼びかけになっていますが、他にもツイッターなどを通して広く参加を呼びかけます。このようにして、PAHは現在までにスペイン全土で463件の立ち退きを阻止してきました。

PAHは現在はスペイン各地で活動していますが、元々は2009年バルセロナで生まれた団体なので、先日もカタルーニャ広場で代表のAda Colauアダ・コラウの話を聞く機会がありました。特に不動産バブルに関する彼女の話が、非常に興味深いものだったので、簡単にまとめておきます。

(「緊縮政策に反対する」というテーマで行われた講演会。左から二人目の女性がアダ)

PAHが活動を始めた4年前は、ローンの返済不能に陥った人を支援するという活動内容をなかなか理解してもらえませんでした。なぜなら、多くの人々が支払えないほどのローンを組んだ本人の自己責任だと考えるからです。しかし、そのローンの金額、つまり住宅の価格が人為的につり上げられたものだとしたらどうでしょうか? 住宅の価格が上昇すると得をするのは、不動産関連業者だけではありません。住宅価格が上がれば住宅ローンの貸付け金額もそれに伴って上がるために、その利息から利益を得る銀行にとっても大きな得になります。こうして、銀行は不動産バブルを煽ってきました。

そして、もう一つの共犯者が政府です。PP政権もPSOE政権も政府は賃貸の条件が悪くなる、つまり持ち家の方が得になるような政策を取って、暗に国民に持ち家を推奨してきたからです。「家賃を払うなんてお金をドブに捨てるようなもの。どうぜ同じような金額を払うのなら住宅を購入してローン返済に回した方がいい」と人々が考えるように、法律を変えてきました。

しかも、ローンによる住宅購入が増えて一番得をするのは国民ではなく、銀行なのです。人々が家賃の支払い分をローン返済に回すことで、今まで得られなかった利益が得られるのですから。

住居は商品ではありません。まともな住居というのは憲法に定められた権利です。権利なのですから、賃貸も購入もどちらも選択肢として人々が自由に選べるのが、本来あるべき状況なのです。ところが、スペインの人々は政府の政策によって住居を購入するという方向に導かれ、さらにその購入金額は不当につり上げられたものだったのです。これも自己責任と言えるでしょうか?

(「銀行のいかさま」に関してはこちらの記事も参照ください)

こうした「不動産バブルと政策の犠牲者」を救済するために、PAHは家を引き渡せば借金がなくなるような法律の改正を議会に求める署名を集めています。実は、こうした通りからの抗議の声を救い上げて、IU左派連合などの野党も対策をとるために法案を提出してきたのですが、今まで4回ともPPとPSOEによって廃案になってきました。それを誰よりも知っているPAHは両党の党首会談を前に、その対策を実行力のあるものとするために3つの要求を発表しています。

  1. 債務者が善意の場合、主住宅として用いている物件の立ち退きを全て停止
  2. 過去に遡ってローンに責任財産限定の適用(物件を引き渡せば債務が残らないようにする)
  3. 金融機関が蓄積している住居を公的賃貸住宅に転用

昨日はまた、スペイン銀行協会AEBが「緊急の必要性」がある場合に立ち退き執行を二年間停止するという声明を出しています。「緊急の必要性」の具体的な中身がわかるまでは何とも言えませんが、銀行側が譲歩したのは金融危機が始まって以来初めての出来事ではないでしょうか。PAHを中心とする人々の通りからのプレッシャーは、少しずつですが確実に状況を変化させています。

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