通信における大合併

すべてはコントロール下に―イグナシオ・ラモネ

アカデミー賞脚本賞を受賞したばかりの近未来を舞台にした映画『her/世界でひとつの彼女』[1]において、主人公セオドア・トゥオンブリー(ホアキン・フェニックス)は、すべてをサポートするアシスタントとして機能するコンピュータのオペレーティングシステムを入手する。ユーザーのあらゆる要求や需要に対して直感的に服従するのだ。セオドアは女性の声のものを選択し、スマートフォンを通じて何時間も彼女と会話するうちに、彼女に惚れ込んでしまう。

「彼女」が暗喩するものは明白だ。私たちのデジタルワールド中毒が増大して、実体のない世界にますます深くのめり込んで行くことを強調している。しかし、ここでこの映画を例に挙げたのは、その教訓だけが理由なのではなく、未来に私たちが行うであろうように、登場人物たちがますます過剰に結合し合った通信環境に暮らしているからでもある。スマートフォン、タブレット、最新のテレビゲーム、巨大な家庭用スクリーン、声で作動する対話型コンピュータなどでぎっしりだ…。

データとビデオの需要は、事実天文学的な水準に達している。なぜなら、ユーザーは日増しにソーシャルネットワークにのめり込んでいるからだ。例えば、Facebookは世界中ですでに約13億人のアクティブユーザーを有する。Youtubeは約10億人。Twitterは7億5000万人。WhatsAppは4億5000万人…[2]。世界中で、ユーザーはもはや一つの通信方法だけでは満足せずに、「四重プレイ」、つまりインターネットへの接続、デジタルテレビ放送、固定電話と携帯電話を要求しているのだ。そして、そのような飽くなき需要を満たすためには、秒速数百メガバイトと表示されるような膨大な情報量を運ぶ能力を持つ(高速のUWB超広帯域無線による)通信コネクションが必要となる。しかし、そこから問題が生じる。技術的な観点から、現在のADSLネットワーク[3]―これによって私たちはスマートフォン、家庭や仕事場でブロードバンドのインターネットを受信できる―は、すでにほとんど飽和状態なのだ…。

何をすべきか?唯一の解決策は、同軸、あるいは光ファイバーのケーブルを介するルートで行うことだ。この技術は、UWB超広帯域無線によるデータ・ビデオ通信で最良の品質を保証し、情報量についてはほとんど無限といえる。1980年代に流行した。しかしながら、隅に追いやられてしまったのは、高額な大規模工事(地面を掘って、ケーブルを埋め、建物のすぐ下までケーブルをひく)が必要であるためだ。わずか数社のケーブルテレビ会社だけが、その信頼性に賭けて、忍耐強くケーブル網を張り巡らした。それ以外の大多数は、格安な(アンテナ網の設置で事足りる)ADSL技術を選んだが、上述したように、すでに飽和状態だ。それだからこそ、この時期に、通信業界の大手(そしてまた、ベンチャーキャピタルの投資家たちも)の動きはみな、逆説的には通信ハイウエイの未来を意味する「旧式」のファイバー網を所有するケーブルテレビ会社との合併を、いかなる犠牲を払っても目指すというものになっている。

このような技術・商業的な状況が、スペインにおいて最近、地域最大のケーブルテレビ会社ONOが72億ユーロで英企業Vodafone[4]に買収された理由である。スペインの業界第四位ONOには、110万の携帯電話用ラインと150万の固定電話用ラインがあり、とりわけ、それに価値を与えているのは、720万戸に達する広域なケーブル網だ。すでにONOの資本の60%は、今説明したような理由により、通信業界の巨大企業が、価格を問わずにケーブルテレビ会社を手に入れたがっていることを知る国際的なベンチャーキャピタルの手の中にあった。

あらゆる場所で、禿鷹ファンドが、業界の買い手に転売し多額の儲けを出すことを目的にして、独立系ケーブルテレビ事業者の買収を進めている。例えば、スペインにおいては、地方のケーブルテレビ事業者3社―Euskaltel、Telecable、R―が、投機的買収の標的となった。2011年に米国のベンチャーキャピタルCarlyle Groupが、アストリアの事業者のTelecableの85%を買収した。2012年には、イタリアの投資ファンドInvestindustrialと北米のTrilantic Capital Parnersがバスクの事業者Euskaltelの48%を手に入れた。先月、英国のファンドCVC Capital Partners[5]はガリシアの事業者R[6]の残り30%を獲得し、現在はその全部を支配している。

ときには、合併は反対方向で行われる。ケーブルテレビ事業者が、通信会社を買収する。これはフランスで起こったばかりで、ケーブル事業者の最大手Numericable(家庭、事業所500万戸に接続している)が、5万7000キロの光ファイバー網を有するフランス第三の電話事業SFRを、およそ120億ユーロで買収しようとしている。

ときにはまた、二つの事業者が合併を決めることもある。これが起こっているのは米国で、ケーブルテレビ事業の大手2社ComcastとTime Warner Cable(TWC)が合併を決めた[7]。この二つの巨人が、ブロードバンドのインターネット、携帯及び固定電話のサービスを提供する利用者の数は、合せて3000万人以上になる。さらに、両社が協力すれば、有料テレビ放送の三分の一を支配することになる。その大合併は、450億ドル(360億ユーロ)という莫大な価格でComcastがTWCを買収するという形の下で行われるであろう。そして、その結果、取引高およそ870億ドル(670億ユーロ)と見積もられるメディアの巨人が誕生することになる。

とりわけ、活字メディアのメディアグループの数字と比較すると、他のインターネットの巨人と同じように、天文学的な金額だ。例えば、新聞エル・パイスの発行元でラテンアメリカでも大きな存在感を持つスペイン最大のメディアグループPRISAの取引高は、30億ユーロに満たない[8]。ニューヨークタイムズは20億ユーロ以下だ。ル・モンドでも3億8000万ユーロを越えることはなく、ガーディアンは2億5000万ユーロにすら届かない。

金融的な力において、活字メディア(それぞれのサイト版を含めてすら)は、通信業界の巨人と比較するとほとんど影響力はない。その重要性は日増しに減っている[9]。しかし、警告や告発のために必要不可欠な要因であり続けている。とりわけ、私たちの通信をスパイすることで新しい通信の巨人たちが犯している濫用に関しては。英国の新聞ガーディアンを通じて広まったエドワード・スノーデンとグレン・グリーンウォルドの暴露のおかげで、私たちはインターネットの巨人たちの大多数が、通信とソーシャルネットワークの使用を大規模にスパイする彼らの違法プログラムを用いことで、国家安全保障局(NAS)の共犯者となっていた―そして、現在もそれを続けている―ことを知った。

私たちが無罪なわけではない。自主的な奴隷である私たちは、観察されていることを知りながらもまだ、、デジタルというドラッグに服用し続けているのだから。中毒が大きくなればなるほど、私たちは自分の生活をますます新たな通信の主に監視させるようになることを気にかけることもなく。私たちはこのまま進んで行くのか? 私たちすべてがコントロールの下にあることを容認できるだろうか?

(訳:海老原弘子)

[1]原題『Her 』スパイク・ジョーンズ監督、2013年製作。

[2]このような状況において興味深いのは、「世界で最もポピュラーなメッセンジャーサービス(4億5000万人のユーザーを抱える)」WhatsappをFacebook社が190億ドルという莫大な金額で買収したことだ。

[3]ADSLとは、Asymmetric Digital Subscriber Line(非対称デジタル加入者線)を意味し、ブロードバンドのインターネットにアクセスする技術の一つ。

[4]Vodaphoneは、2011年に英のケーブルテレビ会社 Cable&Wirelessy 、2012 年にドイツ最大手 Kabel Deutschlandを買収している。

[5]CVC Capital Partnersは、すでに7500 キロを越える光ファーバー網を所有する電話業界第二のスイス企業Sunriseを2010年に買収している。

[6]R Cable y Telecomunicaciones Galicia S. A. は、ブロードバンドのインターネット、テレビ、携帯電話、そしてガリシアの90の市町村で約100万戸の家庭や事業所につながる固定電話のサービスを提供している。

[7]まだ米反トラスト局は、この巨大合併計画を承認していない。

[8]正確には27億2600万ユーロ。2013年にPRISAは、2012年の二倍以上となる6億4900万ユーロの雑赤字を計上した。

[9]イグナシオ・ラモネ『La explosión del periodism』 Clave Intelectual, Madrid, 2012)を参照のこと。

 Todos bajo control – IGNACIO RAMONET

 (ル・モンド・ディプロマティク・スペイン語版2014年04月号より)

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