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第三次イラク戦争―イグナシオ・ラモネ

去る9月11日―象徴的というだけではない日付だ―に、米大統領バラク・オバマは国民に向けて、彼によると〈中東全体にとっての脅威〉であるイスラーム国(IS)に対する新しい軍事戦略を発表した。オバマは、米軍はシリアも含めて[1]〈どこにいようとも〉ISを攻撃するであろうことを明確にした。この新戦略は、ジハーディストに対する〈組織的な〉空からの攻撃[2]、軍事訓練、諜報活動、装備に関してイラク軍を支援するために派遣する米軍の専門家の増強である。

オバマは 、米軍がISに対する地上攻撃に参加しないであろうこと、ワシントンには〈単独の〉ジハーディストと戦闘する意図はないことを付け加えた。「米軍は決定的な差を示すことができるが、私たちにはイラク人自身が行わなければならないことを彼らの代わりに行うことはできないし、地域の安全保障のためにアラブの同盟国が占めるべきポストを占めることもできない」と明言した。

2008年に前任者ジョージ・W・ブッシュが命じた2003年のイラク侵攻を批判した人物として選出されたバラク・オバマは、再び軍隊を派遣しているわけではないことを保証した。そして、フロイトの否定〈die verneinung〉の典型例として、「国家元首として私は、米国が再びイラクでの戦闘に巻き込まれるようなことを許さない」と公言した。つまり、第三次イラク戦争が始まったということだ。

〈湾岸戦争〉(1990〜1991)としての方が馴染みのある第一次は、国連の許可の下サダム・フセインのイラク軍によるクウェート侵攻に反対する34カ国の合同軍の指揮官として米大統領ジョージ・H・ブッシュが指揮を執った。イラクの敗北とクウェートからの撤退で終結した。

第二次(2003〜2010)は、2001年9月11日のテロ攻撃に続くパラノイアのような雰囲気の中、サダム・フセインが〈大量破壊兵器〉を所持しているという偽りの口実の下で、ジョージ・W・ブッシュ(前者の息子)にいよって口火が切られた。国連はその戦争を許可しなかった。イラク軍は数週間で敗北したが、決して和平に至ることはなかった。イラクは未だに抜け出すことができない暴力の混沌の中に沈んだ。二つの前例のように、およそ25年にも及ぶ紛争の後に、この新たな戦争がその目的を果たすことはないであろう。第一に空爆だけで戦争に勝つことはありえないから、そして第二に単にこの戦争の目的が全く明白ではないからだ。

一体何が問題なのか? イスラーム国を敗北させること? しかし、未だにアルカイーダすら打ち負かしていないのであれば、ISはもっとずっと巨大で過激な存在である…。もしかしたら、イラクというまとまりを保つことであろうか? しかし、それならば、公式にイラクのクルディスタン地域の分離と独立宣言を行うという意図を表明しているクルド人の〈ベシュメルゲ〉を大量に武装させて、現在の攻撃を開始したのはなぜか? あるいは、おそらく2003年に試みたように、イラクに真の民主主義を据え付けることだろうか? しかし、それならば、2008年から2014年までイラク首相だったヌーリー・マーリキーが、スンニ派をISの手に押しやるような、シーア派優遇で反スンニ派の言語道断なまでに差別的な政策を行うのをつい最近まで容認していたのはなぜか[3]

他方で、ISを攻撃するために米国の周りに築かれた40 ヵ国を越える大同盟[4]は、あまりにも雑多で矛盾を抱えるとすら言える。例えば、その柱の一つサウジアラビアは世界最悪の独裁国家の一つで、その地下牢には何千人という政治犯がおり、同性愛者は死刑、女性に対する常軌を逸した差別があり、現存する中で最も反動的で原理主義的なイスラーム教の解釈(ワッハーブ派)をし、とりわけ、まるでフランケンシュタイン博士のように、イスラーム国が発見されるまで何年もの間資金を提供していたが、その怪物はその手から去っていってしまったという国だ。あるいは、もう一つの凄まじい独裁国家カタールは、イスラーム世界中のムスリム同胞団に資金提供しており、その中にはガザを統治するパレスチナの組織で、米国と欧州連合が(その決断には議論の余地があるものの)〈テロ組織〉の公式リストに掲載しているハマスがいる。公然と他のイスラーム系テロ組織に資金提供する国々と同盟しながら、ISのテロリストと戦争しようと望むことには、矛盾がはないだろうか?

さらには、近東で新たな戦争を始めるというオバマ大統領の決断が、紛争と地政学上の優先に関する米国の世界戦略を変更することは明らかである。ワシントンは、21世紀における最も重要なライバルの中国がいて、今日(そして、将来さらに重要性が増す)世界経済の中心があるアジアに向けて大幅な軍隊配置の展開を開始することを決断していた。米国の主要シンクタンクによると、欧州はもはや(ウクライナ東部の状況にもかかわらず)米国の大きな軍事的存在感を必要としていない。そして、近東のもつれが解けない状況が続くであろうが、もう米国の戦略上の安全が危険にさらされることはない。米国の領土内で発見されたシェールガスや石油のおかげで、中東の化石燃料への依存がそれほど大きくなくなったからだ。

それだからこそ、オバマ大統領は権力に就いてから、中東での戦闘を終りにして、イラクとアフガニスタンから軍隊を撤退することを約束した。放置する土地を政治的に強化することなしに、あまりにも急速かつ雑な方法でそれが行われたことを、今私たちは目にしている。そうこうするうちに、即席の作戦(2011年のリビア攻撃とバッシャール・アル=アサド転覆の試み)に身を投じて、すでに過剰武装であった地域に武器庫をまき散らし、アルカイーダよりもさらにずっと過激な、新しいタイプのジハーディスト民兵組織の出現を促すという、不吉な結果となった。それを『Pakistan on the Brink』の著者でパキスタンのアナリスト、アハメド・ラシッドは次のように考える。ラシッドは「アルカイーダは少し時代遅れで、過去のものとなりつつある。ISはさらにその先を行っており、より過激だ」と認める。この作家によると、より過激であるのは、 自分たちの土地からシーア派市民を一掃し、自分たちの新たなカリフ王国を設立するためにイラクとシリアを分け隔てる国境を消そうと、ピストルを突きつけて追跡するからだ。今もまだアイマン・ザワーヒリーが指揮するネットワークに関してラシッドは「アルカイーダは国家の存在を信じていて、それが存続して欲しいと考えている」と言う。アルカイーダ、あるいはタリバンのメンバーであるジハーディストたちはその理念を共有しており、そのカリフ王国、イスラーム法の帝国を望んでいるが、その方法はそれぞれだ。「例えば、アフガニスタンのタリバンはISのようにシーア派を全員殺害したいとは思っていない[5]」と指摘する。

この激しい暴力の動き、この新たな野蛮、この急進主義が、奇妙なことに世界中、とりわけ、西欧諸国のジハーディストの若者を惹き付ける。フランスの外相ローラン・ファビウスは、ISに加わるジハーディストたちの出身国は51ヶ国だと警告する。フランスからだけですでに900人以上が海を渡った…。

野蛮人たちが勝利することはない。私たちは少なくともそれを期待しているが、歴史とは何かを思い起こすときには、社会学と歴史哲学を発明したイブン・ハルドゥーン(1332 〜1406)の警告を忘れるべきでない。それは野蛮人の激高によって破壊された数々の帝国の物語であると…[6]

(訳・海老原弘子)

[1] オバマ大統領は9月23日にシリアにあるISの軍事基地への爆撃を命じた。この攻撃を違法にしないためには、著名な国際法学者によると、大統領には議会の同意と、とりわけ国際法上の合法性を尊重するためとして、ロシアと中国の拒否権が問題とならないように国連安保理の承認を必要とした。どうやら、爆撃開始前にワシントンはダマスカスに報告し、シリア当局は「テロに対する国際的行動に反対しない」ことを宣言したようだ。

[2] 事実、8月7日から米国はすでにイラクにあるISの標的を爆撃していた。

[3] 9月14日の独裁的なマリーキーに代わる同じシーア派のハイダル・アル=アバーディの選出は、もし新首相がスンニ派共同体に対して彼らに対する差別を辞めるからと納得させることができれば、状況が変化する可能性がある。目標は ISとの戦闘にスンニ派を組み込むことだ。

[4] パリで9月15日に開催されたイラクの平和と安全に関する国際会議に出席したのは次の国々の代表者で、その大部分が外相であった。ドイツ、サウジアラビア、バーレーン、ベルギー、カナダ、中国、デンマーク、エジプト、アラブ首長国連邦、スペイン、米国、フランス、イラク、イタリア、日本、ヨルダン、クウェート、レバノン、オマーン、カタール、ノルウェー、オランダ、チェコ共和国、英国、ロシア、トルコ。加えて、また次の国々が支援を約束した。アルバニア、オーストラリア、エストニア、デンマーク、ポーランド、日本、スイス、ノルウェー、フィンランド、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ルクセンブルグ、ニュージーランド、韓国。こうして合計で、イスラーム国(IS)のジハーディストと闘うために米国が率いる同盟は40ヶ国を越える。

[5] 2014年6月21日付『El País 』(マドリッド)

[6] Gabriel Martinez-Gros著『Brève histoire des empires. Comment ils surgissent, comment ils s’effondren』(Seuil、パリ、 2014年)を参照のこと。

La tercera guerra de Irak-IGNACIO RAMONET

(ル・モンド・ディプロマティク・スペイン語版2014年10月号より)

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