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もうひとつの道はある:雇用と社会福祉のための提案

著者 ビセンス・ナバロ/ホアン・トーレス・ロペス/アルベルト・ガルソン・エスピノサ

新自由主義陣営の「オルタナティブはない」という主張に真っ向から反論して、「オルタナティブはある」ということを示すために書かれた本書は、大手マスメディアから完全に黙殺されたにもかかわらず、ネットや口コミで話題となり重版を重ねています。「経済のことをわかりやすく説明するのが経済学者の仕事」と言うガルソン氏の言葉通り、抽象的な経済論ではなく、実例を引き合いに出した具体的な話が中心であることが、幅広く読まれている理由の一つでしょう。現在書店には第12刷が並んでいますが、フリーのPDF版もあるので、実際の読者はその数倍となるはず。

本書の特徴は、経済学者による新自由主義批判であるということです。私は10年ほど前の反グローバリゼーション運動がきっかけで、反新自由主義的な視点に興味を持ったので、今までに目にしてきたものは「人間より経済を優先させるのは問題ではないか?」というようなモラルの面からの批判が中心でした。なので、本書を読んで一番驚いたのは、新自由主義は経済にとっても有害であるという指摘でした。つまり、新自由主義を擁護する際の常套文句「経済を良くするためだから仕方ない」という言い訳すら嘘!ということなのですから。

例をあげると、新自由主義陣営は「コスト削減のための民営化」や「雇用創出のための労働市場の柔軟化」を主張しますが、著者たちは現実のデータを示して民営化によってコストが削減するわけでも、労働市場の柔軟化によって雇用が生まれるわけでもないこと、さらには、富の集中と経済格差の拡大を促すことで、経済に大きなダメージを与えることを明らかにしていきます。

そして、著者たちに理があることの何よりの証拠が、現在のスペインの状況です。経済危機が始まってからというもの、スペインでは経済を立て直すという名目で、一貫して緊縮政策と呼ばれる新自由主義政策が押し進められてきました。しかし、緊縮政策の開始から3年以上が経過した現在、経済は回復するどころか悪化の一途で、処方箋が間違っていることは誰の目にも明らかとなっています。

このように、新自由主義の主張というのは不合理で筋が通っていないからこそ、有無を言わせず力ずくで押し付けなければいけないわけです。そのためには、各国が持つ自分で決めるという権利、つまり主権が邪魔…ということで、各国の主権を骨抜きにするために作られたのが、EU欧州共同体という国家を超えた枠組みでした。

現状では、特に経済政策に関して決めるのは全てトロイカ(欧州委員会、欧州中央銀行、IMF)で、スペインの人々の代表であるスペイン政府には何の決定権もありません。実は、このスペイン政府に「主権がない」状況が、カタルーニャのみならずバスクやガリシアといった地域で主権(独立)を求める動きが活発化している理由の一つでもあります。

また、EUは、加盟国の間で多国間条約の締結を積み重ねることで作られた枠組みでもあり、その条約の中には経済的主権の放棄を意味するような自由貿易協定も含まれていました。つまり、条約によって加盟国を拘束し、巨大な市場を作るという点では、EUは現在米国を中心に進められているTPPの先行モデルの一つとも言えるわけです。

つまり、現在の日本では、欧州で「緊縮政策」「EUによる市場統合」と呼ばれたものが、それぞれ装いも新たに「アベノミクス」と「TPP」として押し進められているのです。この二つのテーマに興味をお持ちの方には、その問題点に真っ向から切り込んだ本書を是非とも一度手にとってみてください。また、「日本語版へのまえがき」と「訳者あとがき」を公開していますので、参考にしていただければと思います。

もうひとつの道はある:雇用と社会福祉のための提案

著者 ビセンス・ナバロ/ホアン・トーレス・ロペス/アルベルト・ガルソン・エスピノサ

訳者 吾郷健二/海老原弘子/廣田裕之

出版 柘植書房新社

価格 2500円+税

目次

日本語版へのまえがき

プロローグ(ノーム・チョムスキー)

はじめに

第1章 世界危機の原因
大不況/「緑の芽」という嘘/危機の表層的原因と本質的原因/金融の惨憺な結末/サブプライムローンという詐欺/崩壊/世界経済の危機と副次的な損害/危機の根底にある原因/経済の金融化と銀行の役割/新自由主義/不公平な所得分配と危機/有毒な資本主義

第2章 スペイン経済危機の特殊性
偶然の一致と私たちの特殊性/危機の原因となった生産モデル/行き過ぎの時期、危機の勃発、景気後退

第3章 解決しなければならないこと――より公正で効率的な経済のための課題
破られた約束/同じことを続けて経済状況は悪化/懸案の金融改革、避けられない改革/必要な構造改革/もうひとつの経済、もうひとつの社会関係、もうひとつの人間

第4章 まともな雇用を創出するための条件
失業の原因と雇用創出のための条件/危機における雇用と失業――何に失敗したのか、何を改めなければならないのか?/労働市場の現実は何を教えてくれるのか?/まともな雇用の創出を可能にする条件

第5章 社会支出の不足という障害
競争力の要因としての社会福祉/福祉国家と危機/スペインにおける福祉国家の脆弱さ/スペインの社会的遅れの原因/現在以上の予算で運営される福祉国家は維持できないというのは事実なのか?/社会的権利に対する不十分な支出

第6章 雇用創出と経済回復のためには、賃金の引下げか引上げか?
賃金と競争力/賃金の二つの役割/賃金の引下げか、生産性の向上か?/賃金と市場シェア/競争力の低さは賃金のせいか?/スペインの競争力の低さに対する経営者の責任/すべての国が競争力を持てるわけがない/所得の分配に関する国民協定の必要性/労働賃金と賃金格差の推移/企業の利益――これほどの増加はなんのため?/所得協定と生産モデルの転換/提案の実現性

第7章 経済活動の別のモデルへの融資
公的債務/銀行融資システムの改革/公共部門への融資/赤字の資金調達および公的債務

第8章 もうひとつの欧州、もうひとつの世界
変更不能なものはない/欧州――なぜ、こうなってしまったのか?/欧州のための別の経済プロジェクト/ユーロからの離脱?/新自由主義的グローバリゼーションを超えて

第9章 人間に仕え、自然と調和した経済
深刻な欠陥/人間第一/生産と消費の別の様式、別の価値観/すなわち、私たちは逆の思考方法を学ばなければならないのだ。/これはユートピアなのか?  社会は変えられるのか?/もうひとつの世界は可能である/必要な政治的変革

第10章 115の具体的な提案

訳者あとがき

◆ 著者紹介

ビセンス・ナバロ
政治学者、経済学者。バルセロナのポンペウ・ファブラ大学の政治学・公共政策学教授。アメリカのジョンズ・ホプキンス大学でも教えている。28冊の著書があり、各国語に翻訳されている。国際学術誌で最も頻繁に引用されているスペインの5人の社会科学者の一人である。

ホアン・トーレス・ロペス
セビーリャ大学応用経済学教授。多くの学術論文を執筆しており、20冊以上の著書と多くの共著が好評を得ている。

アルベルト・ガルソン・エスピノサ
経済学を専攻した統一左翼の国会議員。

◆ 訳者紹介

吾郷健二
西南学院大学名誉教授。1970年京都大学大学院経済学研究科博士課程終了。経済学博士。西南学院大学で長年、世界経済論、発展途上国経済論を講義。2010年定年退職。著書に『第三世界論への視座』(世界書院、1988年)、『グローバリゼーションと発展途上国』(コモンズ、2003年)、『農産物貿易自由化で発展途上国はどうなるか――地獄へ向かう競争』(明石書店、2010年)、『現代経済学』(共編著、岩波書店、2008年)その他がある。

海老原弘子
神奈川県出身。2000年秋から1年間滞在したスペインのバルセロナで反グローバリゼーション運動を目の当たりにしたのがきっかけで、スペイン語圏の新自由主義に反対する動きに興味を持つ。2008年からバルセロナ在住で地元企業に勤める傍ら、ブログツイッターで現地の動きを記録・発信中。訳書に「チェのさすらい」(ラモン・チャオ著、トランジスタープレス、2011年)。

廣田裕之
1976年福岡県生まれ。1999年より地域通貨についての研究を始め、『地域通貨入門――持続可能な社会を目指して』(アルテ、2005)、『シルビ オ・ゲゼル入門――減価する貨幣とは何か』(アルテ、2009)などを刊行。現在、スペイン・バレンシア大学の社会的・協同組合経済大学研究所 (IUDESCOOP)による社会的経済の博士課程に在籍中。

*紹介データは本書出版時のものです。

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