スペインから見た地中海の危機

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2016年05月16日にアカデミー音羽で開催されたシンポジウム「G7サミット反対! 搾取も戦争もないもうひとつの世界は可能」で行ったスピーチの内容をまとめたものです。

本日、地中海の移民に関してお話ししようと思ったのは、この問題がもう一つの世界は可能だというスローガンを掲げた90年代末からの反グローバリゼーション運動の、欧州における大きな柱の一つだったからです。

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欧州の反グローバリゼーション運動には統一通貨ユーロへの反対不法移民の合法化という二つの柱がありました。あれから10年以上が経過した現在、統一通貨による市場統合であるユーロ圏の問題がユーロ危機となり、不法移民を生み出すシステム、シェンゲン圏の問題が地中海の危機となって、欧州を根底から揺るがしているのは、とても示唆的なことだと思います。

不法移民の問題が柱となった背景の一つが、サパティスタのマルコス副司令官が1997年8月にル・ムンド・ディプロマティクへ寄稿した「第4次世界大戦が始まった」です。 もっと読む

戦争、記憶、正義ーイグナシオ・ラモネ

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今年の7月でスペイン市民戦争(1936〜1939年)の開始から丸80年となる。冷酷な20世紀において最も冷酷な紛争の一つだった。その紛争は情け容赦のない独裁によって、さらに40年という途方もなく長い期間に渡って引き延ばされた。そして、集団的記憶を真っ赤に燃えたぎるものとしてしまったのだ。今日においてもまだ何万というスペイン人が、共和国派であるというだけで裁判なしに銃殺され、国内のあちこちの道端に埋められている家族の遺体を掘り起こすことを禁じられている。最近の公のスペースの「脱フランコ化(訳注:フランコ体制に協力した人びとの名前を持つ通りや広場の名称を変更するという動き)」を巡る議論の激高ぶりが示したように、1978年の民主制の回復でさえも、人びとの気持ちを鎮めることはなかった…。

歴史記憶法(2007年)は、フランコ体制の犯罪がスペイン社会全体及び人道に対して犯されたと認めなかったために、戦争の深い傷跡を癒すことができなかった。そして、今日も血を流し続けている…。数年前にスペイン司法が、スペイン市民戦争中に起こった10万を越える共和国派の人びと(その遺体はまともな埋葬を受ける権利もなしに、名もない墓地に横たわっている)の失踪と、フランコ独裁体制下(1939〜1975年)において勝者側の家族に引き渡すため、刑務所の中で母親の手から奪われた3万人を越える子どもの運命に関する調査を2008年10月に開始したことで、判事バルタサル・ガルソンに制裁を加えたことを思い出しておこう。 もっと読む

シルビア・フェデリチ・インタビュー後編

シルビア・フェデリチ:家事労働とは労働力を再生産するものだ

ーフェミニズム、奴隷制、ワーキングプア、女性の身体、マルクスー

先日の記事で予告したフェデリチのインタビューの後編です。2014年11月にEspaiFàbricaに掲載されたものを許可を得て翻訳しました。前編はこちらから)

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―『Can the Subaltern Speak?(サバルタンは語ることができるか?)』とガヤトリ・C・スピヴァクは問いかけました。この意味では、私たちは奪われた者たちに、自らの存在の中にヒエラルキーの行使を含んでいるこうした人びとに、声を与えるという矛盾をどのように克服することができるでしょうか? (この矛盾の克服は)彼らが自分の運命を決める能力と行動力を有する政治的主体となるためには不可欠です。どのように私たちはこの垂直性を水平性に変化させることができるのでしょうか?

実は、私にはスピヴァクの問題を理解できないのです。私の考えでは、サバルタンは絶え間なく語っていて、私たちはそれに耳を傾けています。私は今72歳で、その内の40年は運動に関わってきましたが、下からの運動に由来するもの以外で興味深いアイデアを見たことがありません。これは本当です。例えば、家事労働の賃金の話をするときにも、私ならこの50年間で論理的・政治的に最も重要な変革の一つは、第一に反植民地主義の闘いの成果であったと言うでしょう。これが決定的であったことには間違いありません。また、自らの要求を掲げたアフリカの農民たちとその闘いがあります。これらは後に練り上げられて、もっと洗練された理論になりました。例えば、フランツ・ファノンのケースなどです。しかし、突き上げる力は、労働の国際的な分断を揺るがしたこうした偉大な闘いから出現しました。大きな変革となったのは土地の要求を掲げた農民たちの変革であり、工場での変革でした。そして、こうした下からの大きな運動の基礎に関して、後から知識人たちが一つの思想を作り上げるのです。 もっと読む

シルビア・フェデリチ・インタビュー前編

シルビア・フェデリチ:家事労働とは労働力を再生産するものだ

ー資本主義、女性、家事労働、賃金、父権制、差別、コミューンー

前回の記事で予告したフェデリチのインタビューの前編です。2014年11月にEspaiFàbricaに掲載されたものを許可を得て翻訳しました。

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出版社Traficantes de sueñosFundación de los comunesが企画したフェミニストでマルクス主義者のシルビア・フェデリチのバルセロナ訪問を利用して、EspaiFàbricaのためにマリア・コレラがインタビューを行った。ニューヨークのホフストラ大学教授であるフェデリチは、家事労働の本質と報酬、あるいは、資本主義の発展における重要な要素としての暴力の行使に関する研究で広く知られている。

―『A Caliban and the Witch(キャリバンと魔女)』は、資本が蓄積する過程における重要な要素として女性の搾取に言及しています。女性は最も基本的な資本主義の商品、つまり、労働力の主要な生産者かつ再生産者であったからです。賃金労働者の搾取が定着する上で支柱となったのは女性の無償の家事労働だとあなたは言います。

始めにまず言っておきたいのは、 70年代のフェミニズム運動の最も重要な貢献が女性の家事労働の再定義と再解釈であったことです。家事に対する賃金支払い求める闘争を行い、常日頃から分析されてきた文脈での家事労働の問題を全て検討し直すことを始めた人たちの具体的な貢献のひとつでした。これは特に社会主義の流れの中で目に付くものでしたが、もちろん自由主義の流れにおいて行われました。こうした人たちは、家事労働を資本主義の前段階の世界の遺産でも、社会的な富の創出に貢献しない周縁の活動の一形態でもなく、実質的にそれ以外のあらゆる活動を支えるタイプの仕事とみなすということを始めたのです。 もっと読む

魔女狩りと福祉国家

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以前、カタルーニャの伝説の研究をしている人と話す機会がありました。地中海の反対側に位置する北アフリカの研究者として北アフリカの伝説を調べていくうちに故郷カタルーニャとの共通点に気がついて、カタルーニャの伝説についても研究を始めたということでした。彼女によると、元々地中海圏はギリシャ神話のニンフの流れを汲む女神を信仰する女性中心の社会だったそうで、その女神はカタルーニャの伝説にはDona d’aigua(水の女)として登場します。彼女の役割はCuradora(癒す人/治療を施す人)で、カタルーニャのカトリック信仰の中心モンセラット修道院のMoraneta モラネタと呼ばれる黒い聖母マリアもこの流れ。

実のところ、地中海文化の影響が色濃いカタルーニャはこの女神への信仰が根強かったために、カトリック化がなかなか進まなかったそうで、スペイン中央とカタルーニャの対立の歴史というのは、父権的なカトリック信仰の支配に対する母権的な女神信仰の抵抗の歴史としても見ることができるとか。そして、この女神への信仰を駆逐してカトリック信仰を定着させるために、教会が用いたのが魔女狩りでした。カタルーニャはスペインの中でも魔女狩りが盛んだった地域の一つで、カトリックの教えに従わない女性たちが魔女として弾圧されていきました。 もっと読む