ベルタ・カサレス、政治的犯罪ーイグナシオ・ラモネ

246_temporal

諸事情から遅くなりましたが、ル・モンド・ディプロマティク・スペイン語版2016年04月号論説の翻訳です。

彼女はベルタという名前だった。ベルタ・カサレス。去る3月4日に43歳の誕生日を迎えようとしていた。その前夜に殺害された。ホンジュラスにおいて。環境活動家であったために。服従しなかったために。自然を護ろうとしたために。天然資源の大規模搾取を行う多国籍企業に立ち向かったために。自らの民族先住民レンカ族が祖先から引き継いできた権利を主張したために。

大学生だった20歳のとき、ベルタはCPINH(ホンジュラス民衆及び先住民組織市民評議会 Consejo Cívico de Organizaciones Populares e Indígenas de Honduras)を創設した。この組織には今日では200あまりの先住民共同体が集まり、最も活動的な環境保護運動となっている。クーデタから誕生したホンジュラス政府は、国土の30%を鉱山と水力発電に携わる多国籍企業に譲渡した。数十もの建設中の巨大ダムがあり、300を越える大規模搾取企業が政府の買収を通じて国土を略奪している。しかし、COPINHは、ダム建設の停止、森林伐採計画の中断、鉱山採掘の凍結、聖なる地の破壊の回避、そして、 強奪された土地の先住民共同体への返還を達成した。

それだからこそ、3月3日の夜明け、就寝中に、死の部隊の殺し屋二人がラ・エスペランサ市の住居に侵入して、ベルタ・カセレスを殺害したのだ。

これは政治的犯罪だ。2009年6月に憲法に則ったホンジュラス大統領マヌエル・セラヤがクーデターベルタはクーデタ支持者に反対するデモの先頭に立って、途方もない勇気で抗議したーによって失脚してからというもの、この国は世界で最も暴力的な国の一つとなり、略奪的な多国籍企業や犯罪組織にとっての楽園と化してしまった。このような状況で、フアン・オルランド・エルナンデス[1]体制とホンジュラスの寡頭勢力は、処罰を受けることもなく、権利の侵害に反対する者を殺害し続けている。この7年間で、何十人という農民組織の幹部や労働組合のリーダー、社会運動家や人権擁護をする人、反権力的なジャーナリスト、教育者、環境活動家が消された。何の罪に問われることなしに。何の捜査も行われず、何も明らかにされない。誰も処罰されない。そして、主流の国際マスメディア(ベネズエラで起こった失策に対してはどんな小さなものでも激怒する用意がある)は、その恐怖や非道について言及することはほとんどない[2]

ベルタ・カサレスが殺害されたのと同じ日、ロンドンのNGO、Global Witnessはホンジュラスが「環境問題の活動家にとって最も危険な国である」と告発した[3]。2015年に起こった116 件の環境活動家殺害のうち4分の3あまりがラテンアメリカ起こり、その大半は大陸で最も貧しい国の一つホンジュラスで起こった[4]

2015年にベルタ・カセレスは、何千という先住民の居住地からの追放を引き起こす恐れがあった水力発電の巨大ダムの建設への抵抗によって、環境問題で国際的に最も権威のある賞、「緑のノーベル賞」であるゴールドマン環境賞を受賞した。勇敢な闘いによって、ベルタは中国の国有企業で世界最大の水力発電ダム建設業者シノハイドロと世界銀行関連組織の一つが引き下がって、プカ・オパラカ山地にあるレンカ族の聖なる川、グアルカルケ川のところにアグア・サルカ・ダムを建設する計画への参加を撤回させることに成功したのだ。ベルタとCOPINHによって結集した先住民共同体は、一年以上にも渡って建設現場への道路へのアクセスを封鎖した。そして、世界で最も強力な企業と金融の利権を持つ者に、この計画への参加を諦めさせたのだ。その勝利はまた、ベルタの死の最も直接的な原因でもあった。

世界銀行の資金を受けたBanco Ficohsa(ホンジュラス商業金融株式会社)からの融資を受けたホンジュラス企業DESA(エネルギー開発の株式会社)に推し進められて、アグア・サルカ巨大ダムの建設は2010年に開始された。この計画は、中米経済統合銀行(CABEI)、そして、欧州の二つの金融機関、オランダの開発銀行Nederlandse Financierings-Maatschappij voor Ontwikkelingslanden N.V(FMO)とフィンランドの産業協力基金FINNFUNDからの資金援助を有している[5]。そしてまた、タービン建設を受注したドイツ企業Voith Hydro Holding GmbH & Co. KGも関わっている。こうした企業全てに、ベルタ・カサレスの殺害への責任がある。無関係なふりをすることはできない。

なぜなら、環境保護活動家だけでなくレンカ族も正当な権利を守ろうとしているからだ。彼らは、1995年にホンジュラスが調印した国際労働機関(ILO)の原住民及び種族民関する条約(第169号)の侵害を告発している[6]。先住民族の権利に関する国際連合宣言(2007年)もまた要求しているように、巨大ダムに影響を受ける人々との情報を提供した上での自由な事前協議が存在していないのためだ[7]

ベルタは自分が死を刻印された女性であることを知っていた。何度も脅迫を受けてきた。死の部隊、ホンジュラスの支配者の殺し屋に狙われていた。しかし、彼女はいつも「私たちが彼らを恐れていないから、彼らは私たちを恐れている」と言っていた[8]。ゴールドマン賞を受賞した時、彼女はその賞が身を守る盾になるだろうかと問われて、こう答えた。「政府は環境活動家の殺害を一般の暴力犯罪と結びつけようとしますが、社会運動の闘争を犯罪化する目的で計画され、資金提供された政策が存在していることを示すものは十分にあります。私の考えが間違いだといいのですが。でも、環境を護るために闘う人たち対する迫害は、減るどころか激化しているのです」。彼女は間違っていなかった[9]

アグア・サルカのダムの建設は続いている。そして、それに反対する人たちは容赦なく殺害され続けている。ベルタ殺害から10日後、ホンジュラスの環境保護運動のリーダー、ネルソン・ガルシアの身にも起こったように[10]

ガンディー、マーティン・ルーサー・キング、ロメロ神父(訳注:エルサルバドルのイエズス会宣教師)、シコ・メンデス(訳注:ブラジルの環境活動家)を殺害した同じ人たちが、ホンジュラスの草原の見事な花、ベルタの人生を絶った。しかし、彼女の闘いを沈黙させることはできないであろう。パブロ・ネルダが言うように「すべての花を切り落とすことはできても、春を阻止することはできない」[11]

(翻訳・海老原弘子)

 [1] 2013年11月13日に大統領に選出され(最大のライバル、マヌエル・セラヤの妻シオマラ・カストロは選挙結果を認めずに、不正選挙を訴えた)、フアン・オルランド・エルナンデスは2014年1月27日就任した。彼は、スペインの国民党やフランスの共和党(サルコジの政党)などが加盟する保守派の国際組織、国際民主同盟(IDU)の一員であるホンジュラス国民党に所属する。

[2] このダブル・スタンダードを確認するには、例えば、クオリティ・ペーパーとされるエル・パイス紙がベルタ・カサレスに割いたスペースと、ベネズエラで投獄されているレオポルド・ロペスに2年前から継続的に割いているスペースを比較してみると良いだろう。

[3] https://www.globalwitness.org/fr/press-releases/global-witness-releases-new-data-murder-rate-environmental-and-land-activists-honduras-highest-world/

[4] 「ホンジュラスはラテンアメリカで最も貧困レベルが高い国である」(“国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)、2015年11月。

[5] FINNFUNDが表明したベルタ・カサレス殺害を非難する文書を読むと興味深い。その中で、このフィンランドの金融機関は、それでもダム建設は継続するであろうと主張しているように読める。http://www.finnfund.fi/ajankohtaista/uutiset16/en_GB/agua_zarca/

[6] http://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/@ed_norm/@normes/documents/publication/wcms_100910.pdf

[7] http://www.un.org/esa/socdev/unpfii/documents/DRIPS_es.pdf

[8] Beverly Bell著「The Life and Legacy of Berta Cáceres」(Counterpunch、2016年3月11日)

[9]  Giorgio Trucchi著 「Asesinaron a un alma indomable」(Rebelión、 2016年3月7日)を参照のこと。

[10] http://www.eltelegrafo.com.ec/noticias/mundo/9/otro-lider-indigena-y-ambientalista-fue-asesinado-en-honduras

[11] Rafael Silva著「Berta Cáceres, otra víctima del capital」(Rebelión、2016年3月8日)より引用。

Berta Cáceres, crimen político – Ignacio Ramonet

 (ル・モンド・ディプロマティク・スペイン語版2016年04月号より)

************

参考までに、クーデタから一年後に書かれた記事を転載しておきます。

ホンジュラスを解放せよ-クーデタから一年 グスタボ・ドゥク

2010年6月30日

Original

この6月28日で、ロベルト・ミチェレティと国の実権を握る者たちが率いた国家クーデターから一年が経過した。この間に、我々が国際社会と呼ぶものから発せられたのはは、いくばくかの気弱な告発のジェスチャーだけだ。

その反対に国際的な連帯の動きは、明白な形でホンジュラスの民衆や正義を求める組織や民衆の抵抗を支持し続けている。しかし、農民、教師、ジャーナリスト、聖職者といった抵抗運動を行う人々は、この一年を通じて殺害されたり、姿を消したり、死の脅迫に苦しんできた。

«Grito de los Excluidos(疎外された者の叫び)»と«La Iniciativa de Acción contra los Agronegocios(農業ビジネス化反対行動イニシアチブ)»の告発によると、このような状況が作り出されて維持されている背景には、権力を持って 動いている者たちがいて、その一つがホンジュラスの農業ビジネスを牛耳る少数の権力集団だという。

彼らが最も危険で重大だと訴えているの は、現在コロン県のバホ・アグアンで起こっている事態だ。2010年2月以降現在までに、MUCA (アグアン農民統一運動)のメンバー7人が土地の権利を巡る紛争において殺害されており、直近の例が6月20日に殺害された17歳のオスカル・ジョバニ・ ラミレスだ。3000ヘクタールの土地の譲り受けた2500世帯の農家が追い立てられている [1]のは、アフリカ椰子を扱う企業が、その土地を再征服しようとしているからだ。この椰子油はバイオ燃料の生産に利用できるため、ビジネスとしての価値が上昇中である。

こ の二つの組織が自分たちのマニフェストにおいて「バホ・アグアンで行われている不正義は、ホンジュラスにおいて人権を蹂躙・侵害によって経済力と 政治力を得た農業ビジネス企業家たちの貪欲な利益追求の姿勢を反映したものだ。こうした企業家と呼ばれる人々こそが、一年前の国家クーデター以降その権力 を強化した人々なのだ。」と表現している。そして歯に衣を着せず「それは地元の農産品企業や国際なフランチャイズ企業を牛耳る何人かのことで、その中には ピザハット、ケンタッキー、ペプシ、ゲータレード、バーガーキング、ダンキンドーナツといったお馴染みの企業がある。」と企業名を上げた。

ホンジュラスの人々は、他の社会運動を行う人々の間に同胞愛があることを良く分かっている。手を取り合って、少数のエリートの利益のために、自然を私物化し、人々を搾取している者の化けの皮をはがすであろう。それは彼らのものなのだから。

[1] クーデター直前の6月12日に前大統領セラヤ署名した協定により、この地域の土地の所有権を巡る調査を行うことが決まった。その結果がわかるまで現状を維 持することになったにもかかわらず、軍や警察が数名の大土地所有者に有利になるように農民を追い立てているため、MUCAは抗議活動を行っている。

La desconquista de Honduras– Gustavo Duch

 

広告

気候変動への挑戦ーイグナシオ・ラモネ

LMd

気候変動枠組条約(UNFCCC)第21回締約国会議(COP21)ーパリで2015年11月30日に始まり12月11日まで続くーにおいて問われているのは、気候危機と効果的に闘うこと、及び石油に依存しない社会への移行を促進することを可能にするために、義務を伴う全世界的な合意に達成するという初めての試みが実現するのかということだ。公正な移行に向けた世界的な合意ができるのか。

しかし、気候変動会議が失敗の連続であった20年からは、とても楽観的ではいられない。いまや地球の温度が上昇したこととその原因が人類の産業活動であることを否定する者はほとんどいないにもかかわらず。ローマ教皇フランシスコまでもが最近の回勅Laudato Si’の中で「私たちが懸念される気候システム温暖化に直面していることを示す、確固とした科学的な合意がある」と認めている。そして「この数十年の地球温暖化の大部分は、中でも人類の活動が原因で発生した温室効果ガス(GHG)の大量の蓄積が原因であることを数多くの科学的な研究が示している」と。 もっと読む

民主主義を民主化するーイグナシオ・ラモネ

LMd経済グローバリゼーションの枠組みにおいて、民主主義システムは矛盾に直面している。多くの選挙における棄権の増加が示しているように、市民は政治への興味を失っている。しかし、一方ではその同じ市民が公機関の行動をもっとコントロールして、直接影響を受けるプロジェクトの作成にもっと参加したいと望んでいる。どうしてこの二つの傾向が両立するのだろうか?

第一に、今の世界ほど多くの民主主義システムが存在して、多くの民主的な政権交替が起こったことはなかった。40年ほど前、スペインの民主化のときには、民主国家は30ヶ国しか存在しなかった。現在では、民主国家ー強固さの段階は様々であるものの―の数は、国連によると85ヶ国である。つまり、民主国家は世界で最も正当性を有する統治システムとなったのだ。それにもかかわらず、私たちはかつてないほど民主主義に不満を抱いている。この不満の兆候は日増しに目に見えるようになっている。投票しないと決意する有権者の数は次第に増加している。ギャラップ・インターナショナルが「民主国家」60ヶ国で実施した調査によると「自国の政府が民意に従っている」と考えるのは回答者のわずか10人に一人だった。 もっと読む

ノーム・チョムスキーへのインタビュー―イグナシオ・ラモネ

監視帝国に対抗して

LMd

ブエノスアイレス(アルゼンチン)では去る3月12日から14日に文化省と国民思想戦略調整局長リカルド・フォルステルの主催で大きな意義のある解放と対等のための国際フォーラムが開催され、米国、ラテンアメリカ、欧州から錚々たる顔ぶれが集まった。ラテンアメリカだけではなくいくつかの欧州の国々でもまた、ラテンアメリカで実施された革新的な進歩を理解する新しい政治組織(Syriza シリザとPodemos ポデモス)が状況を変革して「緊縮」政策の拒否と社会参加という解決策をもたらそうとしている。こうした国々において、まさにその真っ只中を生きつつあるこの時機について考察しようとするものだ。

その稀に見る邂逅の枠組みにおいて私たちは、世界で最も著名な知識人の一人で米国の友人ノーム・チョムスキーにインタビューすることができた。どのようにして今よりも暴力や格差が少なく、より公正な社会を構築するかを何十年も考え続けてきた人物だ。 もっと読む

ベネズエラに対するクーデターの企て―イグナシオ・ラモネ

LMd

ベネズエラに対するクーデターの企て―イグナシオ・ラモネ

アマゾンに生息する愛らしい鳥、鮮やかな色の派手なクチバシで良く知られるツカノ(訳注:オオハシ)。しかし、これはまたブラジルのメーカー、エンブラエルによって製造された攻撃的な「アルミ製の鳥」の名称でもある。その軍事上の名称はEMB-312で、最も売れている二つの機種が練習用のT-27と地上攻撃用戦闘機AT-27だ。世界で最も売れている練習機の一つである。例えば、ベネズエラ空軍は約30機のツカノを所有している。

そして、まさにこうしたツカノ戦闘機の一機が攻撃のためにミサイルを搭載して、2月12日にカラカスにおいてミラフロール宮殿(訳注:大統領府)を爆撃するはずであった。そして、ニコラス・マドゥロ大統領を殺害するはずであった。また、防衛省を攻撃し、無秩序と混乱を拡散するために国際テレビ放送局テレスールのスタジオが入った建物を破壊するという使命も有していた。 もっと読む