1994年1月1日サパティスタ民族解放軍蜂起

「お騒がせして申し訳ありませんが、これは革命なのです」

新自由主義の悪夢を実体験中のスペインでは、新自由主義の闘いを「実戦」に移すための様々な試みが行われています。

新自由主義/ネオリベラル」という言葉がスペインに入ってきたのは、1990年代からの反グローバリゼーション運動の文脈の中でした。それから15年が経過した現在では、例えば、リベラルな知識人として知られるノーベル賞作家のマリオ・バルガス・リョサが新自由主義を代表する論客であるように、スペイン語では「ネオ」をとった「リベラル」という言葉が「ネオリベラル」と同義に使われるほどに浸透しています。

そして、反グローバリゼーション運動における「新自由主義との闘い」の方向性の決定に大きな役割を果たしたのが、サパティスタ民族解放軍(EZLN)の副司令官マルコスでした。1997年8月ル・モンド・ディプロマティク・フランス版に掲載された彼の「第四次世界大戦が始まった」に刺激されて、当時編集長だったイグナシオ・ラモネが「金融市場を非武装化せよ」を執筆したところから、反グローバリゼーション運動の原動力となる市民組織ATTACが誕生したからです。

5月の欧州議会選挙に向けてスペインで反新自由主義勢力の結集が試みられている中で、原点に戻ってみようと先日「第四次世界大戦が始まった」に目を通してみました。その際に、的確に現在の状況を予言しているこの論考の重要性を改めて実感したので、ざっと訳出してみることにしました。5000語を超える長いテキストなので、3回に分けて紹介していきます。ここに描かれている未来予想図こそが、15年以上が経過した現在の私たちが目にしている世界の姿ではないでしょうか。

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第四次世界大戦が始まった-マルコス副司令官

6月7日の選挙のときに、メキシコにおいて政治を揺るがす正真正銘の地震が起こった。約70年間で初めて、PRI(制度的革命党)が下院での絶対多数を失い、数々の州の統治権とメキシコシティーの市長の座も失ったのだ。その座には民主社会主義者の民主革命党(PDI)党首クアウテモク・カルデナスが戻ってくる 。チアパスでは、サパティスタ民族解放軍(EZLN)は、投票に関して明確な指示を与えずに、彼らの聖地であるラカンドンのジャングルの葉陰に退去した。これは、EZLNのリーダー、マルコス副司令官が私たちに届けてきた新世界秩序という独創的な地理戦略地政学上の分析である。

《戦争とは、国家にとって極めて重要な問題であり、

生と死の領域であり、生存あるいは絶滅へ向かう道である。

これについて深く研究するのは必要不可欠だ》

孫子『兵法』

世界のシステムとしての新自由主義は、新たな領土征服戦争である。第三次世界大戦、あるいは冷戦の終結は、世界が二極化を克服し、勝者の覇権の下に安定を回復したことを意味するものでは全くない。なぜなら、 敗者(社会主義陣営)があったとしても、勝者の名前を挙げることは困難だからだ。勝者は米国? EU(欧州連合)? 日本? この3つすべて? 「悪の帝国」の敗北によって新しい市場が開かれ、その征服が新たな世界大戦、第四次世界大戦を誘発する。

すべての紛争がそうであるように、これは国民国家にアイデンティティを再定義することを強いる。世界秩序はアメリカ、アフリカ、オセアニアの征服という古い時代へ回帰した。後退する奇妙な現代性。20世紀の黄昏は、何万というSF小説に描かれた理性的な未来よりも、かつての野蛮な時代に似ているようだ。

広大な領土、富、そしてとりわけ膨大な使用可能な労働力が、新しい主人を待っている。世界の主の地位は一つしかないが、その候補者は数多くいる。《善の帝国》の一部となろうとする者たちの間で新たな戦争が起こる。

もし第三次世界大戦が、様々な地域において様々な強度を持つ資本主義と社会主義の衝突であったとしたなら、第四次世界大戦は、巨大な金融センターの間で勃発し、世界劇場においてもの凄い強度を保ちながら行われる。

名前とは裏腹に《冷戦》は非常に高温まで達した。国際的スパイの地下納骨堂から有名なドナルド・レーガンの 《スター・ウォーズ》の宇宙空間。キューバのコチノス湾(ピッグズ湾)の砂浜からベトナムのメコンデルタ。ブレーキのきかない核兵器競争からラテンアメリカにおける野蛮なクーデター。NATO軍の犯罪的な策略からチェ・ゲバラが殺害されたボリビアでのCIAエージェントの陰謀まで。こうした出来事がすべてによって、最後に社会主義陣営を世界のシステムとして溶解し、社会的な代替案として解体した。

第三次世界大戦はその勝者、つまり資本主義にとって《全面戦争》がもたらす利益を示した。戦後に、新たな地球のシステムがうっすらと姿を現し、そこで衝突を引き起こす主な要因は(東側の崩壊による)無人地帯の大幅な増加、大国(米国、EU、日本)の発展、世界的な経済危機、新たな情報革命である。

コンピュータのおかげで、金融市場は楽屋から思うがままに、自分たちの法と世界観を地球に押し付けている。《グローバリゼーション》とは、生活のあらゆる側面において金融市場の論理が隅々まで行き渡ること以外のなにものでもない。かつての経済の主であった米国は、これからはまさに金融パワーのダイナミズム、つまり自由貿易によって操縦、遠隔操縦される。そして、この論理は、 遠距離通信の発展から生じた透過性を、社会スペクトル活動のあらゆる側面をわがものとするために利用した。ついに、完全な世界全面戦争! その最初の犠牲者の一つが国内市場だ。新自由主義によって勃発した戦争は、シールドルームの内部で発射された弾丸のように、跳ね返り、発砲した者を傷つけることになる。現代資本主義国家の力の重要な基礎の一つである国内市場は、世界的な金融経済の爆撃によって一掃される。新国際資本主義は、国家資本主義を賞味期限切れとし、公権力の飢餓状態へと追いやる。その一撃たるやものすごいもので、国民国家にはもはや市民の利益を護る力が残らない。

冷戦から受け継いだ美しいショーウインドー-新世界秩序-は、新自由主義の爆発によって粉々になる。企業と国家が崩壊するには数分で十分だ。ただし、プロレタリア革命の息吹ではなく、金融台風の暴力が原因となるが。

息子(新自由主義)は父(国家資本)を貪り尽くして、通りがかりに資本主義イデオロギーの嘘を破壊する。つまり、新世界秩序の中には民主主義も、自由も、平等も、友愛もない。世界という舞台は、カオスが支配する新たな戦場と化す。

冷戦の終わりに資本主義は軍事的恐怖を作り出した。中性子爆弾、建物は無傷なままで中にいる生物を全滅させる兵器だ。しかしながら、第四次世界大戦という機会に、驚異的な新兵器が発見された。金融爆弾である。広島や長崎の爆弾との違いは、この新爆弾はポリス(この場合は国)を破壊して、そこに暮らす人々に死、恐怖、悲惨な状況を押し付けるだけではなく、その標的を経済グローバリゼーションというパズルの単なる1ピースに変えてしまうことだ。この爆発がもたらすのは、煙を上げる瓦礫の山や何千という死体ではなく、新しい超大型スーパーという商業メガロポリスに加わる地区とグローバル雇用という新しい市場のために再形成された労働力だ。

欧州連合は第四次世界大戦の効果を身をもって体験中だ。グローバリゼーションは、何世紀も前から敵同士であったライバル国家の間の境界線の消去に成功し、加盟国に政治的統合に向けて一致することを強いている。国民国家から欧州連邦へ至る道は、欧州文明を筆頭に、破壊と廃墟で舗装されることになる。

メガシティは全地球上で再生産されている。自由貿易地域が彼らがひいきにする土地となる。北米においては、カナダ、米国、メキシコの間の北米自由貿易協定(NAFTA)が、征服という古い夢《アメリカ人のためのアメリカ》の実現を先取りしている。メガシティが国に取って代わるのだろうか? そうでない。いや、それだけではないと言った方がいいだろう。メガシティは国家に新たな機能、新たな境界線、新たな観点を付与する。国家は丸ごと新自由主義のメガ企業の部署と化して、一方では破壊/絶滅を、他方では地域や国の再建/再編を引き起こす。

もし核爆弾が第三次世界大戦時に、抑止効果、威嚇、強制という性質を有していたとするなら、第四次世界大戦中の金融ハイパー爆弾は異なる性質のものだ。それらは、その主権という重要な基盤を破壊し、質的な絶滅を生じさせ、新しい経済に適応できない者を全て疎外(例えば、先住民)することで領土(国民国家)攻撃の役に立つ。しかし、同時に金融センターは、《経済が社会より上》という新たな論理に従い、国民国家を再建し、再編する。

先住民の世界にはこの戦略を説明する例がいっぱいある。国際労働機関(ILO)中央アメリカ部門ディレクター、イアン・チェンバースは、先住民の総人口(3億人)が住む地域には地球上の天然資源の60%が埋蔵されていると発言した。《従って、紛争の多くが彼らの土地を奪い取るために生じるのは驚くことではない…(中略)…天然資源(石油や鉱山)の搾取や観光がアメリカにおいて先住民の領土を脅かしている主な産業だ》[1]。その次には、汚染、売春、ドラッグが来る。

この新しい戦争において、国民国家の動力としての政治は、もはや存在しない。それは単に経済を扱うのに役立つだけで、政治家は企業の役員以外の何者でもない。新しい世界の主には直接統治する必要がない。各国政府が代理として、ビジネスの管理を担当するからだ。新秩序とは、世界を単一の市場に統合することである。国家は政府の代わりに経営者を有する企業でしかなくなり、新たな地域同盟は政治的連邦よりも事業合併に近いものとなる。新自由主義が生み出す統合は経済的なものであるが、その地球規模の巨大な超大型スーパーにおいて自由に流通するのは商品であって、人間ではない。

グローバリゼーションはまた、思考の一般モデルも広める。《アメリカ式ライフスタイル》は、第二次世界大戦中の欧州、ベトナム、最近では湾岸に米軍に従って進出し、コンピューターを通じて世界中に広がっている。それは国民国家の重要な基礎の破壊だけでなく、歴史と文化の破壊でもある。国民が築き上げてきた文化すべて-アメリカ先住民の壮大な過去、輝かしい欧州の文明、アジア国々の博識な歴史、アフリカやオセアニアの太古から伝わる豊かさ-が、アメリカ式ライフスタイルによって危機にさらされている。新自由主義は、自らのモデルに融合させるために、国民や民族集団を強引に破壊する。つまり、これは世界大戦であり、人類に対して新自由主義が解き放った最も残酷かつ最悪の世界大戦なのだ。(続く)

[1] Martha Garcíaとのインタビュー、La Jornada紙、1997/05/28

第四次世界大戦が始まった(1)-マルコス副司令官

第四次世界大戦が始まった(2)-マルコス副司令官

第四次世界大戦が始まった(3)-マルコス副司令官

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